マコトの徒然日記

日々思うことを綴ります。よく頭おかしいと言われます。

日本で成功する歴史モノとは ~『蒼天航路』と『キングダム』の比較から~

今や日本が世界に誇る文化の一つ、マンガ。膨大な数のマンガが生み出された今、ジャンルもさまざま、扱われる題材もさまざまです。

そのなかでも割とメジャーなジャンルとして、歴史モノがあると思います。史実に忠実なものもあれば、大きく脚色・創作が加えられたものなど、その形態はさまざまですが、とりあえずここでは、歴史上の人物や出来事などを題材としているものを歴史モノとします。

 

少し前に、蒼天航路というマンガを読みました。作品そのものは10年以上前に完結したマンガです。

内容としては、日本でも大人気の三国志」を描いた歴史モノで、三国志マンガとしては割と有名で、名作として語られることも多いようです。史実に沿いながら、脚色・創作も加えつつ、独自の物語が展開します。この作品の最大の特徴は、曹操を主人公として、三国志の物語」ではなく、「曹操の物語」というスタンスで描かれていることです。

そのため、物語は「三国志」としては完結せず、曹操が生涯を終えるとともに物語も終了します。また、三国志演義の影響でTHE主人公として認識されがちな劉備をはじめ、登場人物たちも独自のイメージで描かれています。

 

 

一般的な本作の特徴・評価としては上記のような部分が多いのだと思いますが、私が読んだなかでは、儒教の存在」が大きな特徴として感じられました。

 

物語の舞台となる後漢末期~三国時代においては、儒教的な考え方・価値観に基づいて政治が行われ、人々にも儒教的考え方が浸透しており、三国志を語る上では避けることのできない要素です。また、国に根付いた儒教にとらわれず、儒教を一つの学問として相対化し、文学・医学など他の学問を確立・発展させようとしたことが曹操の功績でもあり、曹操の物語としてもその要素は欠かせません。

が、実際に読んでいると、正直、登場人物たちの行動規範となる儒教についての説明は少ないので、心の奥ではなんとなくわかったようなわからないような、ちょっとしたモヤモヤを感じました。

蒼天航路では、登場人物それぞれに思惑を持ちつつも、大義名分は漢の再興のため、皇帝のためというところにあります。物語中盤以降で三国が成立するまでは、あくまで漢国内での諸勢力の争いなので、本音と建て前みたいなものが多く、国同士で侵略戦争をするような単純な話ではないです。加えて、登場人物たちは儒教的価値観のもとにお話を進めるので「それってそんなに問題なの?」みたいに思うこともそれなりにあります。

 

曹操の一つの大きな特徴である唯才主義。個人の出自や人となり、儒教的価値などではなく、ただ才能のみをもって個人を評価し登用する、という考え方です。この考え方によって、曹操は求賢令を発布します。簡単にいうと、唯才主義そのままで、才能さえあれば登用しますよ、その人の身分とか人格とかそんなのは気にしませんよ、というもの。

それまで後漢では、儒教にもとづき、その人の儒教的教養や人格をもとに人材登用・人物評価が行われていたにもかかわらず、それに真っ向から対立する人材登用法を打ち立てた曹操は、儒者から猛反発を受けます。

長年軍師や曹操治政の中枢を任せてきた荀彧から、反対を受けるシーンです。

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蒼天航路』文庫版13巻

 

ここまでのお話でも、「儒」というものが重んじられているんだな、と思わされる描写は多くありましたが、あまりちゃんとした説明はなかったため、人によってはこの辺の話はわかったようなわからないような、という感想を抱くかもしれません。

 

さらにもう一つ。

儒教は、そもそもは孔子の教えです。それが弟子から後世に伝えられ発展し、三国志の時代には国の代表的思想・価値観となっています。

この時代に、その孔子の子孫である孔融という人物が存在し、朝廷に仕えるとともに、その出自から儒教の象徴的な存在としての一面も持っていました。

しかし孔融は、ことあるごとに曹操の施策に反対し曹操と対立し、最終的には処刑されます

政治の重要な役割を担う儒者、しかも孔子の子孫である孔融を処刑するということは、またしても儒教の否定とみなされかねない行為です。よって、ここでも荀彧曹操に反対します。

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蒼天航路』文庫版11巻

 

こんな感じで、曹操個人の考えと国に根付いた儒教思想の対立による対立が多く描かれます。

一般的には儒教は国の基盤となる思想であるが、曹操にとってはあくまで一つの学問だという感じです。

 

 

一方、私も長年読み続けている、言わずと知れた現代の大人気作『キングダム』

時代は三国時代より400年ほど前の春秋・戦国時代。キングダムで描かれる秦が中華統一を果たし、その秦を滅ぼして誕生するのが漢(前漢)です。

キングダムというマンガは、天下の大将軍を夢見る下僕の少年・が、数々の戦いのなかで成長し、秦国内を駆け上がっていく物語です。

こちらのマンガも非常におもしろく、言うまでもなく現在人気絶頂の作品です。

また、キングダムも、蒼天航路と同じく、歴史上実在する人物をキャラクターとして、史実に基づきつつ創作・脚色を交えた独自の物語が展開されます。

 

蒼天航路との大きな違い、それは儒教のような宗教・思想の存在です。

キングダムにおけるキャラクターたちの行動には、蒼天航路における儒教大義名分はありません。

物語の目標は、マクロで見れば秦国による中華統一・法治国家の形成、主人公個人では武功をあげて天下の大将軍となることです。

登場人物たちも、いろいろな策略を張り巡らせはしますが、基本的には素直に大目標実現に向かって行動します。国としては列国との戦争に勝つ、個人としては戦争で活躍する、という感じ。そのため、キングダムにおいては、各キャラクタ-の行動や思考に対して、なんかよくわからんみたいに思うことはあまりないです。

 

 

題材としている時代も異なるため、上記のような違いをもって作品の善し悪しを語ることはできませんが、少なくとも現在におけるキングダムの成功は、そのような歴史モノ特有のわかりにくさみたいなものが少ないことが大きく寄与しているように思います。

歴史モノで語られる時代の多くは、現代のように「政教分離」という発想がなく、政治と宗教が密接に結びついていることが多いので、その辺の説明がないとなんでそうなるの?ってなりがちです。

もちろん、そういう部分をそぎ落としたほうがおもしろいとかそうすべきとは思いませんし、そんなことを言うつもりもありません。

 

 

現代の日本人にとって、宗教はあまりなじみのないものです。儒教は宗教なのかという話はありますが)

実際には、日本も大昔から仏教や神道儒教などが人々に浸透しており、現代の私たちの思想・生活文化に潜在的に根付いていますし、それらの考え方に基づいた論理に対しては、日本人はなんとなくわかる、なんとなく正しいという印象を持つと思います。

ですが、やはり表だって宗教的な要素が現れると、どうしても知らないとわからない、解説されないとわからない部分は出てきますし、なんかちょっとした抵抗感みたいなものを感じるのも事実かと思います。

儒教と密接に絡む三国志を題材とし儒教要素を大いに描いた蒼天航路を読んだことで、キングダムという作品のわかりやすさを感じることができました。

キングダムの時代における、宗教・思想的なところは実際どうであったかは特に調べていないのでわかりませんし、そういった部分はまだまだ未発展でそもそも物語とは全然絡まない状況だったのかもしれませんが、そういった要素の少なさが、物語のおもしろさとあいまって、宗教意識の薄い日本で大人気を博しているのではないでしょうか。

 

 

 

と、蒼天航路ディスるような内容になってしまいましたが、そんなつもりはありませんし、逆に蒼天航路は超絶オススメするマンガです。ぜひご一読ください!