キン肉マンに学ぶ、誰もが持つ「プロ意識」のジレンマ ~ギブアップという制度に着目して~
何度か言及しているかと思いますが、私は1993年生まれであり世代を外れてはいますが、『キン肉マン』シリーズが大好きです。
出会いは『Ⅱ世』ですが、『初代』も読みましたし、現在連載中のシリーズも楽しみに読んでいます。
最近、読みながらあらためて、作中に登場する超人たちの、超人レスラーとしてのプロ意識を実感しました。
キン肉マンシリーズ内では、超人たちにいくつかの属性というか派閥というか集団というか、そんな感じのものが存在します。(正義超人、悪魔超人、完璧超人など)
超人たちは、自らの所属する集団の持つ誇りとかポリシーとかに忠実で、非常にプロ意識が高いです。
特に印象的なシーンをご紹介します。
正義超人:悪から人間を守るため、ネバーギブアップ
悪魔超人:悪魔にギブアップは許されない
完璧超人:完璧超人にギブアップはあり得ない
こいつら誰もギブアップしんやん!!
この人たちはいくら苦しくても、結果死ぬことになっても、自らの背負う看板のために、ギブアップは絶対にしないという強い信念のもとに戦っています。
各々の信念を貫くため、自らの死すらもかえりみない、まさに超人レスラーとしての「プロ意識」のあらわれでしょう。
が、これだけみんながみんな、ギブアップに否定的であるのはさすがにどうかと思います。
キン肉マンの世界では、ハラボテ・マッスル(Ⅱ世途中からはイケメン・マッスル)が委員長を務める宇宙超人委員会が、正・悪問わずすべての超人を統括しており、超人レスリングのルールを規定するとともに、試合の運営・審判を務めています。
宇宙超人委員会として、(おそらく超人の生命を守るために)ルールとして認めているギブアップが、「みっともないもの」と見なされてほとんどの超人がそれを活用しないことをポリシーとしているという事態は、看過できないものなのではないでしょうか。
かといって、超人たちの人権を尊重するため、彼らの誇りを傷つけるわけにもいきません。
「その人たちを守るために認められた権利・定められた制度なのに、該当者たちのプロ意識やポリシーが邪魔をして、結果的に該当者たちが不利益を被る」
というのは、現実社会でもみられることだと思います。
題材としたキン肉マンでキャラクターたちを縛っているのは、上記のように「プロ意識」でしたが、現実社会でいえば、固定観念や強がり、悪しき慣習などが邪魔をすることも多いでしょう。
「働き方改革」が叫ばれ法整備がなされつつある現代でも古くから染みついた日本の体質によって、なかなか労働環境の改善につながらない。
性別に対しての固定観念によって男性の育児参加や女性の社会進出が進まない。
「いい大学に入っていい会社に就職する」ことが正義とされ、自分のしたいことは二の次に考えた結果の「こんなはずじゃなかった」。
親に心配されたくない、「悪い子」と言われたくないから、いじめられていると言えず、苦しみながらも学校に通う。
数え始めれば、キリがないですし、『キン肉マン』の例からは少し外れているかもしれません。
でも、『キン肉マン』でも極端にいえば、「正義超人はこうあるべき」「悪魔超人ならこうでなければならない」というように、各個人が、それぞれ所属する集団のレッテルを貼られ、それぞれの集団が持つ「信念」という名の固定観念に支配されているとも言えるのではないでしょうか。つらくとも、それを貫き通すことこそが「プロ」であると。
そんななか、そんな現代社会での生き方を示してくれるキャラクターがいました。
悪魔超人であり、そのなかでも最上位の悪魔六騎士、さらにその首領格でもあるサンシャインです。
そんなサンシャインのぜひ見てほしいシーンは、「夢の超人タッグ編」でアシュラマンとのはぐれ悪魔超人コンビとしてテリーマン・ジェロニモのニュー・マシンガンズと戦ったときのワンシーンです。(キン肉マン 文庫版10巻)
テリーマンのテキサス・クローバー・ホールドを完璧に極められてしまい、苦しむサンシャイン。
悪魔超人サンシャインはどうするのか・・・。
ギブアップしようとしているではありませんか!
悪魔六騎士の首領格ともあろう超人が!
でも、悪魔超人としての「プロ意識」との間で揺れ動いてもいます。
結局は、アシュラマンが人質にとったジェロニモを救うためにテリーマンが技を解き、ギブアップすることはありませんでしたが、強要された悪魔超人としての「信念」に逆らおうとしたサンシャイン。
世間の「こうあるべき」に従う必要なんてないと思わせてくれました。
現代社会に生きる我々も、様々な「こうあるべき」という「信念」に縛られています。でも、決してそれを貫き通す「プロ」である必要なんてない、押しつけられる「信念」には逆らったっていい、逃げたっていい。
そんな生き方を示してくれたような気がします。
ありがとう、サンシャイン。